城内の歌合せの会に出席して、はからずもその席上かつての小町娘今は奥方の侍女楓を見出した時が自尊心の傷ついた二度目。
アバタ面の猿飛が猿の衣裳つけて罷り出で、短冊片手に首かしげ、歌を読むとて万葉もどきに「アバタめが首を振る振る振るもよし振らぬもよし……」などとは口くさっても言えようか見せられようか、ああ恥かしい、醜態じゃと、たちまち忍術の極意で楓の前より姿を消したその足で上田を立ちのき、武者修行に出掛けたが、忍術を使えばいかな敵もなく、遂にわれ日本一なりと呆れ果てたる己惚れに増長したところを、師の戸沢図書虎より苦もなく術を封じられてしまったのが三度目。
そして四度目は想い出すさえ生々しい。即ち昨日の山賊退治の拙い一幕だ。だんまりで演れば丁々発止の竜闘虎争[#底本では「龍闘虎争」]の息使いも渋い写実で凄かったろうに、下手に鳴り物沢山入れて、野暮な駄洒落の啖呵[#底本では「痰呵」と誤植]に風流を気取ったばかしに、竜頭蛇尾[#底本では「龍頭蛇尾」]に終ってしまったとは、いかにもオッチョコチョイめいて、思えばはしたない。
「総じておれは気障が過ぎるわい」
ただでさえ目立つアバタの旗印を、
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