龍」]、井守、蝮蛇の血に、天鼠、百足、白檀、丁香、水銀郎の細末を混じた眠り薬を仕掛けたものであるとは知らぬが仏を作って、魂を入れるための駄洒落もがなと、咄嗟に、
「来るか鈴鹿の山賊共!」
 と言う言葉が口をついて出ると、随分とこの洒落にわれながら気をよくして思わず笑えば笑窪《えくぼ》がアバタにかくれて、信州にかくれもなきアバタ面を、しかし棚にあげて、
「打ちみたところ、眼ッかち、鼻べちゃ、藪にらみ、さては兎唇《みつくち》出歯の守、そろいそろった醜《ぶ》男が、ひょっとこ面を三百も、目刺しまがいに、並べたところは祭だが祭は祭でも血祭りだ」
 と、いい気な気焔をわめき散らした。あとで思えば醜態であった。
 しかも、更に赤面汗顔に価いしたのは、いよいよとなると、ただ黙々とやるだけでは芸がない、雅びた文句の数え歌に合わせてやるとて、石川五右衛門[#底本では「石川五衛門」と誤植]の洒落た名乗り文句をもじって、
「一に石川で」で一人。
「二に忍術で」で二人。
「三にさわがす」で三人。
「四に白浪の五右衛門の」で四人五人。
「六でも七《な》き子分ども」で六人七人。
「八《や》いばに掛けて」八人。
「九
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