照れた。お辰はすかさず、
「敬さん、剃刀でもシャンプーでも用あったら、注文したっとくなはれや」
と、言った。
東西屋が天婦羅をふるまって貰って、行ってしまうと、にわかに黄昏れて来た。
日の丸湯へ戻り、ふと女湯の障子にはめられた赤、紫、黄、青の色硝子に湯槽の湯がゆらゆらと映って、霞んでいるのを、いつもとちがうしみじみとした美しさだと見上げていると、
「上り湯ぬるおまっせ」
羅宇しかえ屋のお内儀の声がし、暫らくすると、季節はずれの大正琴の音がきこえて来た。曲は数え歌の「一つとや」
朝日軒の義枝は去年なくなり、弾いているのは末の娘の持子で、二十二歳、もちろん姉たちと一緒に独身で、すぐ上の兄の敬助は郵船会社へ勤めているが毎日牛乳を三合のみ、肺がわるかった。
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第三章 昭和
1
十年が経った。
君枝は二十歳、女の器量は子供の時には判らぬものだといわれるくらいの器量よしになっていた。
マニラへ行く前から黒かったという他吉の孫娘とは思えぬほど色も白く、
「あれで手に霜焼けひび赤ぎれさえ無かったら申し分ないのやが……」
と言われ、なお愛嬌もよく、下足番
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