やんとこかて、好きやろ?」
「灸[#「灸」は底本では「炙」となっている]すえへんか」
「すえへん、すえへん」
「ほんなら好きや」
「そか、好きか」
 可愛さに気の遠くなる想いで、頭髪の熱っぽい匂いをかぎながらじっと君枝を抱いていると、〆団治が、[#底本では、「〆団治」の前で改行して、改行後はじめの一字下げしていない]
「他あやん、えらいこっちゃ。君やんが夜中に居らんようになった」
 家出したのとちがうやろかと、寝巻きのままで、血相かえてやって来た。
「〆さん、何寝とぼけてるねん」
 君枝をわざと蒲団の中へ押しかくしながら、言うと、〆団治も気がついて、
「なんや、ここに居てたんかいな。ああ、びっくりした。ひとの悪い子やぜ、ほんまに」
「おまはんは鼾かくさかい、いやや言うとるぜ。お祖父やんとこの方がええなあ、君枝」
「そんな殺生な――」
 言いながら、表へ出ると、日の丸湯で湯槽の湯を抜いて床を洗っている音がザアザアと聴えて来て、河童路地もすっかり更けていた。
 甘酒屋の婆さんが飼うている※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66、64−2]はきちがいだろうか、夜も明けぬのにだしぬけに頓狂な鳴
前へ 次へ
全195ページ中62ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング