すべては約束とちがっていたのだ。
こんな筈ではなかったと、鶴田組の三百名はとうとう人夫頭といっしょに山を下ってしまった。
そうしたものの、しかし雇われるところといってはマラバト・ナバトの兵営建築工事か、キャビテ軍港の石炭揚げよりほかになく、日給はわずかに八十セントで、うち三十五セントの食費を差し引かれるようではお話にならず、また、比律賓人の空家にはいりこんで自炊しながらの煎餅売りも乞食めく。
良い思案はないものかと評定していると、関西移民組合から派遣されて来たという佐渡島他吉が、
「言うちゃなんやけど、今日まで生命があったのは、こら神さんのお蔭や。こないだの山崩れでころッと死[#文泉堂書店版では「《い》」のルビ]てしもたもんやおもて、もういっぺんベンゲットへ戻ろやないか。ここで逃げだしてしもてやな、工事が失敗《すかたん》になって見イ、死んだ連中が浮かばれへんやないか。わいらは正真正銘の日本人やぜ」
と、大阪弁で言った。すると、
「そうとものし、俺《うら》らはアメジカ人やヘリピン人や、ドシア人の出来なかった工事《こうり》を、立派《じっぱ》にやって見せちやるんじゃ。俺《うら》らがマ
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