》か、横堀川の上に斜めにかかった橋のたもとまで来ると、
「他吉!」
と、いきなり呼ばれ、五六人の俥夫に取り囲まれた。
「なんぞ用か?」
咄嗟に「ベンゲットの他あやん」にかえって身構えたところを、
「ようもひとの繩張りを荒しやがったな」
と、拳骨が来て、眼の前が血色に燃えた。
「何をッ!」
と、まずぱっと上着とシャツを落して、背中を見せ、
「さあ、来やがれ!』
と、振りあげた手に、握っていた玩具が自分の眼にはいらなかったら、他吉はその時足が折れるまで暴れまわったところだが、
――今ここで怪我をしては孫が……
他吉は気を失っただけで済んだ。
やがて、どれだけ経ったろうか、ベンゲットの丸竹の寝台の上に寝ている夢で眼をさますと、そこはもとの橋の上で、泡盛でも飲み過ぎたのかと、揺り起されていた。
そうして五年が経った。
間もなく小学校ゆえ君枝を自身俥に乗せて河童路地へ連れて戻ると君枝は痩せて顔色がわるく、青洟で筒っぽうの袖をこちこちにして、陰気な娘だった。
両親のないことがもう子供心にもこたえるらしく、それ故の精のなさかと、見れば不憫で、鮭を焼いて食べさせたところ、
「これ
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