頭……。言うたら皆わたいの責任だす。もうわたいは自分の命をこの孫にくれてやりまんねん」
 言っているうちに、本当にその覚悟が膝にぶるぶる来て、光った眼をきっとあげると、傍にいた笹原の御寮人が、
「あんたのそう言うのんはそら無理もないけど、ほんまに男手ひとつで育てられまっか。あんた、お乳が出るのんか」
「出まへん、なんぼわたいの胸を吸うても、そら無理だす。胃袋で子供うめ言うのと同じだす」
「それ見なはれ」
「しかし、御寮はん、ミルクいうもんが……」
 言うと、笹原が、
「ミルクで育った子は弱い」
 だしぬけに言った、
「そうだすとも……」
 笹原の御寮人は残酷めいた口元を見せて、
「――他あやん、うちはその子貰たらお乳母をつけよ思てまんねんぜ。それに他あやん、あんたその子|背負《せた》ろうて俥ひく気イだっか」
「ほな、こいで失礼さしてもらいま。えらいおやかまっさんでした」
 他吉が頭を下げると、背中の君枝の頭もぶらんと宙に浮いて、下った。

     4
 
 間もなく他吉は南河内狭山の百姓家へ君枝を里子に出し、その足で一日三十里梶棒握って走った。
 里子の養育料は足もとを見られた月に二
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