頭……。言うたら皆わたいの責任だす。もうわたいは自分の命をこの孫にくれてやりまんねん」
言っているうちに、本当にその覚悟が膝にぶるぶる来て、光った眼をきっとあげると、傍にいた笹原の御寮人が、
「あんたのそう言うのんはそら無理もないけど、ほんまに男手ひとつで育てられまっか。あんた、お乳が出るのんか」
「出まへん、なんぼわたいの胸を吸うても、そら無理だす。胃袋で子供うめ言うのと同じだす」
「それ見なはれ」
「しかし、御寮はん、ミルクいうもんが……」
言うと、笹原が、
「ミルクで育った子は弱い」
だしぬけに言った、
「そうだすとも……」
笹原の御寮人は残酷めいた口元を見せて、
「――他あやん、うちはその子貰たらお乳母をつけよ思てまんねんぜ。それに他あやん、あんたその子|背負《せた》ろうて俥ひく気イだっか」
「ほな、こいで失礼さしてもらいま。えらいおやかまっさんでした」
他吉が頭を下げると、背中の君枝の頭もぶらんと宙に浮いて、下った。
4
間もなく他吉は南河内狭山の百姓家へ君枝を里子に出し、その足で一日三十里梶棒握って走った。
里子の養育料は足もとを見られた月に二
前へ
次へ
全195ページ中46ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング