笹原が言った。途端に他吉の肚はきまった。
「旦さん、えらい変骨言うようでっけど、わたいは孫を酒にかえる気イはおまへん。眼に入れても痛いことのない孫でっけど、酒に代えて口の中へ入れたら舌が火傷してしまいま」
「そない言うてしもたら、話でけへんがな。――そらまあ、おまはんが私は要らん言うのやったらそいでええとせえ。しかし、他あやん、おまはんはそいでええとしても、ひとつその子のことを考えてみたりイな。河童路地で育つ方が倖せか、それとも……」
痛いところを突かれたが、他吉はいきなり、
「そら判ってます。よう判ってま」
と、顔をあげて、
「――しかし、旦さん、たとえ貧乏でも、狸や河童の巣みたいな路地で育っても、やっぱり血をわけたわいに育ててもろた方が、この子の倖せだす。いやきっとわたいが倖せにしてやりま」
そこまで言って、他吉は男泣いた。
やがて、涙をふきふき、
「――まあ、聴いてやっとくれやす。この子のお父つぁん[#底本では「お父っあん」となっている]も、わいが無理矢理|横車《ごりがん》振ってマニライ行かしたばっかりに、ころっと逝ってしまいよりました。この子のお母んもそれを苦にして、到
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