ちた。
父親はいつのときも、賛成も反対もせず、つまりは煮え切らず、ぼそぼそ口の中で呟いているだけだったが、おたかはまるで差し出でて、仲人に向い、
「格式の違うことあれしまへんか」
と、いつもこの調子で、仲人を怒らしてしまい、その都度簡単に話は立ち消えたのだ。
当座の小気味良さも、しかし、あとでむなしい淋しさと変った。だから、義枝には、
「あんな仕様むない男に貰われたら、お前の一生の損やさかいに……」
と言い聴かせ、それをまた自分へのいいわけにもした。
よその娘なら知らず、義枝の父親は理髪業者の寄合へ洋服で出席した最初の人で、なお町会の幹事もしているのだ……。
ところが、そんなことがあって、こんどの相手は畳屋の年期奉公上りの職人で、と聴いてみると、やはりおたかはあらかじめ断る肚をきめて置いてよかったと思った。
散髪屋も畳屋も同じ手職稼業でたいした違いはないようなものの、おたかにしてみれば、口惜しいほど格式が落ちたと思われ、だから断るにもサバサバした気持だった。
仲人はあきれて帰って行った。
おたかは暫時ぺたりと坐りこんだまま、肩で息をし、息をし、畳の一つところを凝視して
前へ
次へ
全195ページ中31ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング