立ち働いて炊事を手伝った。
小柄で、袖なしなどを色気なく着て、こそこそ背中をまるめ、びっくりしたような眼をしていた。器量もたいして良くなかった。
筑前琵琶をならい、年中「石童丸」を弾いて、それで散髪に来る客の心を惹いているように誤解されていることは、さきに述べた通りである。
父親の四十九日が済んで間もなく、紋附きを着た男が不意に来て、義枝の縁談であった。
気配で何かそれらしく、おたかは随分狼狽した。咄嗟の心構えがつかず、むしろ気恥かしく応待した。取り乱しては嗤われるかねがねの負目で、嬉しい顔も迂濶に出来なかった。
客は小憎いほど落ち着いて、世間話のまくらをだらだらとふった。
それで焦らされて、おたかはわざと濃い表情も自然に装えて、顔をしかめた。すると、縁談をきく心用意もどうやら出来たが、そうして落着いたところは、意外にも断る肚であった。
相手の身分も訊かぬうちに、そんな風に決めて、われながら意固地な母だったが、いまに始ったわけではない。
……父親の生きていた頃、三度義枝に縁談があったことはあった。
相手は呉服屋の番頭、公設市場の書記、瓦斯会社の集金人と、だんだん格が落
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