手紙で、こんどはどんなたよりが書いてあるかと、娘の帰りを待ち切れず、〆団治なら読めるだろうと、その足で、
「〆さん、〆さん、留守か。居るのんか。居れへんのんか」
隣の〆団治に声をかけた。
すると、羅宇しかえ屋の家の中から、声だけ来て、
「〆さんは寄席だっせ」
「さよか。――ところで、おばはん、けったいな事訊くけど、おまはん字イはどないだ?」
「良え薬でもくれるのんか。なんし、わての痔イは物言うても痛む奴ちゃさかい」
字と痔をききちがえて、羅宇しかえ屋のお内儀が言うと、
「あれくらい大けな声出したら、なるほど痛みもするわいな」
と、理髪店朝日軒で客がききつけて、大笑いだった。
2
理髪店朝日軒では、先年葬礼の道供養に友恵堂の最中を二百袋も配って、随分近所の評判になった。
袋には朝日軒と書かれてあり、普通何の某家と書くところを、わざとそうしたのは無論宣伝のためであったろう。
死んだのはそこの当主で、あと総領の敬吉が家業を継ぐわけだが、未だ若かった、先代は理髪養成学校の創立委員で、嘱託されて教師にもなり、だから死なれて見ると、二代目の敬吉の若さは随分目立つ。おまけ
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