、間に合いまっさかい」
 蝶子はかねがね柳吉の字が巧いのを、自慢していたのである。
「――へえ、おおけに。しかし、お宅かてお忙しいでっしゃろさかい、それに、帳面づけや何やかやは、隣組の人がしてくれはる言うことでっさかい」
 玄関に立つと、蝶子は、
「そんなら、ここで失礼して着せてもらいます」
 と、黒いビロードのコートを羽織った。蝶子の幸福がそのコートに現われているように君枝は思い、なにか安心した。
「さよなら、精落さんようにしとくれやっしゃ」
 蝶子が玄関の戸をあけた拍子に、君枝の眼に空がうつった。
 降るような星空だった。



底本:「織田作之助 名作選集9」現代社
   1956(昭和31)年10月31日初版発行
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。(青空文庫)
※底本に混在している「狭」と「狹」、「髪」と「髮」、「寝」と「寢」、「奥」と「奧」、「労」と「勞」、「来」と「來」、「潜」と「潛」、「プラネタリ
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