た。養子に取られてしまった財産にはもう未練がないとしても、さすがに娘のことは忘れかねて、浄瑠璃の稽古もそんな心のふさぎを忘れるためであるかも知れなかった。してみれば、蝶子も今は何ひとつ遠慮気兼ねや生活の心配はないとはいうものの、心はからりと晴れ切っているわけでもないだろうと、君枝は蝶子が日頃陽気な明るい気性であるだけに、一層蝶子の淋しさが同情されるのだった。
文楽座の前まで来たのでもう蝶子の話を打ち切った。
ところが、文楽座は人形芝居はかかっていず、古い映画を上映しているらしく、映画のスティールが陳列されていた。人形芝居は夏場の巡業で東京へ行っているとのことだった。
「なんのこっちゃ。折角大阪へ来て文楽でも見よういう気になったのに、これやったら、わざわざ大阪で見なくても、東京に居れば結構見られた勘定やな」
次郎はちょっとがっかりした。
「――活動でも見る」
「今日は紋日で満員でしょう?」
君枝は見る気がないらしかった。
なんだかこのまま別れて帰ってしまいたいように思っているらしく見えて、次郎はますますがっかりしたが、ふと想いだして、眼を輝かした。
「そや、良いものがある。あん
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