も三十円と纒った金はたまらなかった。

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「……そないして苦労して来やはったところが、渡る世間に鬼はないとはよう言うてまんなあ――蝶子はんの昔のお友達でえらい出世したはる金八さんという方が十年振りで、ぱったり蝶子はんに会いはって、いまどないしたはる言うところからこないやこないやと蝶子はんが言やはると、そらお気の毒や言うてお金貸したげはって、それを資本に、蝶子はんは下寺町にサロン「蝶柳」いう喫茶酒場をひらきはって、今でも盛大にやったはる……」
 君枝はそう語った。
「ほう……? それはよかった。種さんも喜んだはるやろ? そいで、維康さんのお父さんは……?」
 次郎がきくと、君枝は、
「さあ、それですがな……」
 と、力を入れて、
「――お父さんの生きてるうちに天下晴れてと思てはったのに、到頭|一昨年《おとどし》の暮に死んでしまいはって……。蝶子はんは葬式にだけは出られるつもりで、喪服をこしらえたりしたはったのに、葬式に出る資格ない言われて、そんなむごい仕方があるかいうて蝶子はんは泣きはって、えらい騒動だした。そらまあ無理もおまへんわ。なんせ蝶子はんは一生日蔭者で終りとうない
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