、これでは柳吉の遊びに油を注ぐために商売をしているようなものだと、蝶子はだんだんに関東煮屋をはじめたことを後悔しだした。するうちに、酒屋への支払いなども滞り勝ちになり、結局やめるに若かずと思って、その旨柳吉に言うと、柳吉は即座に同意した。
「この店譲ります」と貼り出ししたまま、陰気臭くずっと店を閉めた切りだった。柳吉は浄瑠璃の稽古に通いだした。
 貯えの金も次第に薄くなって行くのに、一向に店の買手がつかなかった。蝶子はそろそろ三度目のヤトナに出ることを考えていた。
 ある日、蝶子が二階の窓から表の人通りを眺めていると、それが皆客に見えて、商売をしていないことがいかにも残念であった。向い側の五六軒先にある果物屋が、赤や黄や緑の色が咲きこぼれて、活気を見せていた。客の出入りも多かった。果物屋は良え商売やなあとふと思うと、もう居ても立っても居られず、柳吉が稽古から帰って来ると、早速「果物《あかもん》屋をやれへんか」と相談した。が、柳吉は「さいな」と呟いたきり、てんで乗気にならなかった。いよいよ食うに困れば、梅田へ行って無心すれば良しと考えていたのだ。
 ある日、どうやら本当に梅田へ出掛けたら
前へ 次へ
全195ページ中134ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング