くの下寺町で稽古場をひらいている竹本組昇に月謝五円で弟子入りし、二ツ井戸の天牛書店で稽古本の古いのを漁って、毎日ぶらりと出掛けた。柳吉は商売に身を入れるといっても、客が来なければ仕様がないといった顔で店番をするときも稽古本をひらいて、ぼそぼそうなった。その声がいかにも情けなく、蝶子は上達したと褒めるのもなんとなく気が引けた。
 毎月食い込んで行ったので、蝶子は再びヤトナに出た。苦労とはこのことかとさすがにしんみりしたが、宴会の席ではやはり稼業《しょうばい》大事とつとめて、一人で座敷を浚って行かねばすまぬ、そんな気性はめったに失われなかった。ひとつには、柳吉の本妻は先年死に、蝶子も苦労の仕甲斐があった。
 ところが、柳吉はそんな蝶子の気持を知ってか知らずにか、夕方蝶子が三味線を入れた小型の手提げ鞄をもって出掛けて行くと、そわそわと早仕舞いして、二ツ井戸の市場の中にある屋台店で、かやく飯とおこぜ[#「おこぜ」に傍点]の赤出しを食べ、鳥貝の酢味噌で酒をのみ、六十五銭の勘定を払って、安いもんやなあと、「一番」でビールやフルーツをとり、肩入れしている女にふんだんにチップをやると、十日間の売上げが
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