い、ちりちり胸が痛んで眉をひそめていると、次郎はいそいそと出て来て、
「こっち歩きましょう」
片影の方へ寄った。君枝の眉をひそめた表情を、日射のせいだと思ったのである。
写真館の隣りに寄席があった。
寄席の隣りに剃刀屋があった。
次郎は剃刀屋の細長い店の奥を覗いてみたが、十年前にそこにいた柳吉の姿はもうそこに見受けられなかった。
が、剃刀屋の向いには、相変らず鉄冷鉱泉[#底本では「鉄霊鉱泉」と誤記]《むねすかし》屋があった。
剃刀屋の隣りに写真屋があった。
写真屋の隣りに牛肉店があった。
名も昔通りのいろは牛肉店で、次郎は千日前はすこしも変らぬなと思いながら通り過ぎようとすると、君枝はなに思ったのか、
「ちょっと……」
と、言って立ち停り、そして、いろはの横町へはいって行った。
そこは変にうらぶれた薄汚ないごたごたした横町で、左手のマッサージと看板の掛った家の二階では、五六人の按摩がお互い揉み合いしていた。その小屋根には朝顔の植木鉢がちょぼんと置かれていて、屋根続きに歯科医院のみすぼらしい看板があった。看板が掛っていなければ、誰もそこを歯医者とは思えぬような、古びた
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