にかく行くことにした。
「じゃあ、これ持って行きなはれ」
主任はめずらしく、市電の回数券を二枚ちぎってくれた。
動物園前で市電を降り、食物屋や[#底本では「食物屋が」と誤記]雑貨屋がごちゃごちゃと並んだ繁華な大門通りを抜けて、大門の近くで右へ折れると、南海電車の萩の茶屋の停留所の手前に、
「ヒチ、大西」
と青い暖簾がかかっていた。
入口でちょっとためらい、ちらとそのあたりを見廻してから、
「今日は」
と、はいって行くと、
「おいでやす」
文楽人形のちゃり頭《かしら》のような顔をして格子のうしろに坐っていた丁稚《でっち》が、君枝の顔を見るなり、
「電話のお方が来やはりましたぜエ」
奥へ向って、大声をだした。
瞬間奥の部屋でなにかさっと動揺があった――と、君枝は思った。
「秀どん、なに大きな声だしたはるねん。阿呆やな」
言いながら、いつもは奥の長火鉢の前で、頭痛膏をこめかみにはりつけた蒼い顔で、置物のようにぺたりと坐りこんでいる御寮人が、思いがけずいそいそと出て来て、
「――よう来てくれはりました。さあ、どうぞ。どうぞあがっとくれやす」
手をとらんばかりに愛想が良く、眉
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