うあなたのものね。
 橋の袂でシイカが言った。

     4

 暗闇の中で伝書鳩がけたたましい羽搏《はばた》きをし続けた。
 彼はじいっと眠られない夜を、シイカの事を考え明すのだった。彼はシイカとそれから二三人の男が交って、いっしょにポオカアをやった晩の事を考えていた。自分の手札をかくし、お互いに他人の手札に探りを入れるようなこの骨牌《かるた》のゲームには、絶対に無表情な、仮面のような、平気で嘘をつける顔つきが必要だった。この特別の顔つきを Poker−face と言っていた。――シイカがこんな巧みなポオカア・フェスを作れるとは、彼は実際びっくりしてしまったのだった。
 お互いに信じ合い、恋し合っている男女が、一遍このポオカアのゲームをしてみるがいい。忍びこんだメフィストの笑いのように、暗い疑惑の戦慄が、男の全身に沁みて行くであろうから。
 あの仮面の下の彼女。何んと巧みな白々しい彼女のポオカア・フェス!――橋の向うの彼女を知ろうとする激しい欲望が、嵐のように彼を襲《おそ》ってきたのは、あの晩からであった。もちろん彼女は大勝ちで、マクラメの手提袋の中へ無雑作に紙幣《さつ》束をおし込
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