うとおもうのです。
君は幸あふれ、
われは、なみだあふる。
もしも彼女が、嘴の重みで、のめりそうになるほど嘲笑しても、私は、もう一度言いなおそう。
さいはひは、あふるべきところにあふれ、
なみだ、また――
それでもガラガラわらったら、私はいっそあの皺枯れ声に、
あたしゃね、おっかさんがね、
お嫁入りにやるんだとさ、
と、おぼえさせようとおもっています。
12
明るい街を、碧《あお》い眼をした三人の尼さんが、真白の帽子、黒の法衣《ほうえ》の裾をつまみ、黒い洋傘《こうもり》を日傘の代りにさして、ゆっくりと歩いて行った。穏やかな会話が微風《そよかぜ》のように彼女たちの唇を漏れてきた。
――もう春ですわね。
――ほんとに。春になると、私はいつも故国《くに》の景色を想いだします。この異国に来てからもう七度の春が巡ってきました。
――どこの国も同んなじですわね、世界じゅう。
――私の妹も、もう長い裾の洋服を着せられたことでしょう。
――カスタニイの並木路を、母とよく歩いて行ったものです。
――神様が、妹に、立派な恋人をお授《さず》けくださいますように!
―― Amen!
―― Amen!
(11に挿入した句章は作者F・Oの承諾による)
底本:「日本文学全集88 名作集(三)昭和編」集英社
1970(昭和45)年1月25日発行
入力:土屋隆
校正:林幸雄
2003年2月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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