時にそれが宗教と芸術とを通じて普く我々日本人の生活の全局面へ、日本文化の全般にまで浸潤して来たところの大いなる推移其物であつた。
序乍ら大凡そ日本人の独創性と天才性とは、所謂理論を、学説を、思想を新しく発明し工夫し出すところにあるよりも、むしろ単なる理論や学説や思想に過ぎない所のものを、生活其物の、文化其物の真生命にまで霊化して来るところにあるのである。
所謂思想は、それが単なる思想である限り単なる抽象的概念に過ぎない。我々日本人が概念の代りに事物其物を、少くとも象徴化されたものを産むといふのに誇張があるとするならば、少くとも他の民族等が単なる概念としてのみ育ち得てゐたところのものを、我々日本人が象徴化して具体化して、生活其物にまで変へて見せることが出来ると言はう。
ともあれ、東洋的な、種々の所謂思想丈けならば、既に実際に証拠立てられてゐる如く、稍優秀な頭脳を有つた丈けの欧羅巴人の誰彼によつてゞも、容易く理解され、そしてもてはやされることすらも出来るであらう。けれ共、日本人の生活に具体化されてゐるところの、象徴化されてゐるところの、また然うしてこの他何処にも存在し得ないところの東洋的なものが、我がフリイドリツヒ・ニイチエの如き欧羅巴人に依つてのみ、本当に理解され、そして熱愛され得たことの偶然ならぬことを思ふとき、彼に対する私共の謝恩の情と、好知己の感とは、改めてまた彼にまでずつとより近く、私共を引きつけられるやうに思ふことを禁じ得ないのである。
底本:「近代浪漫派文庫 14 登張竹風 生田長江」新学社
2006(平成18)年3月12日初版発行
入力:田中敬三
校正:門田裕志
2009年11月13日作成
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