ばし》の、これもやはり馬喰町三丁目にいた能登屋で、この店は凧の唸《うな》りから考えた凧が流行らなくなると、鯨屋になって、今でも鯨屋をしています。
それから東京市の街燈を請負《うけお》って、初めて設けたのは、例の吉原の金瓶大黒の松本でした。燈はランプで、底の方の拡がった葉鉄《ぶりき》の四角なのでした。また今パールとか何とかいって、白粉《おしろい》下のような美顔水《びがんすい》というような化粧の水が沢山ありますが、昔では例の式亭三馬《しきていさんば》が作った「江戸の水」があるばかりなのが、明治になって早くこの種のものを売出したのが「小町水」で、それからこれはずっと後の話ですが、小川町の翁屋という薬種屋の主人で安川という人があって、硯友社《けんゆうしゃ》の紅葉さんなんかと友人で、硯友社連中の文士芝居《ぶんししばい》に、ドロドロの火薬係をやった人でして、その化粧水をポマドンヌールと命《なづ》けていた。どういう意味か珍な名のものだ。とにかく売れたものでしたね。この翁屋の主人は、紅葉さんなんかと友人で、文墨《ぶんぼく》の交《まじわり》がある位で、ちょっと変った面白い人で、第三回の博覧会の時でしたかに、会場内の厠《かわや》の下掃除を引受けて、御手前の防臭剤かなんかを撒《ま》かしていましたが、終には防臭剤を博覧会へ出かけちゃ、自分で撒いていたので可笑《おか》しかった。その人も故人になったそうですが、若くって惜しいことでしたね。
[#地から1字上げ](明治四十二年八月『趣味』第四巻第八号)
底本:「梵雲庵雑話」岩波文庫、岩波書店
1999(平成11)年8月18日第1刷発行
※「十ケ月」の「ケ」を小書きしない扱いは、底本通りにしました。
入力:小林繁雄
校正:門田裕志
2003年2月9日作成
青空文庫作成ファイル:
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