の前の方へ少し離れた所に燈火《あかり》の仕掛があってこれがその絵に依《よ》って種々《いろいろ》な色の光を投げかけるようになっています。例えばベニスの景の時には月夜の有様を見せて青い光を浴せ、ヴェスビアス火山噴火の絵には赤い光線に変るといった具合です。今から考えれば実に単純なつまらないものですが、その時分にはパノラマ風の画風と外国の風景と光線の応用とが珍らしくって、評判だったものです。これを私の父が模倣《まね》して浅草公園で興行しようと計画したことがありましたが都合でやめました。

     西洋蝋燭

 明治五年初めて横浜と新橋との間に汽車が開通した時、それを祝って新橋停車場の前には沢山の紅提灯《べにぢょうちん》が吊るされましたが、その時その提灯には皆|舶来蝋燭《はくらいろうそく》を使用して灯をつけたものです。その蝋燭の入っていた箱が新橋の傍に山のように積んで捨ててあったのを覚えています。これが恐らく西洋蝋燭を沢山に使った初めでしたろう。その頃は西洋蝋燭を使うなどということは珍らしかった時代ですから大分世間の評判に上りました。

     舶来屋

 その頃から西洋臭いものを売る店が比
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