止《とど》まることも出来ないでそのまま先生の居間に入った。何とも知れない一種の戦慄《せんりつ》が身うちに漲《みな》ぎって、坐った時には彼の顔は真蒼《まっさお》になっていた。富岡老人は床に就いていてその枕許《まくらもと》に薬罎《くすりびん》が置いてある。
「オヤ何所《どこ》かお悪う御座いますか」と細川は搾《しぼ》り出《いだ》すような声で漸《やっ》と言った。富岡老人一言も発しない、一間は寂《せき》としている、細川は呼吸《いき》も塞《つま》るべく感じた。暫《しばら》くすると、
「細川! 貴公《おまえ》は乃公《おれ》の所へ元来《いったい》何をしに来るのだ、エ?」
 寝たまま富岡先生は人を圧《お》しつけるような調声《ちょうし》、人を嘲《あざ》けるような声音《こわね》で言った。細川は一語も発し得ない。
「エ、元来《いったい》何をしに来るのだ? 乃公《おれ》の見舞に来るのか。娘の御|機嫌《きげん》を取りに来るのか、エ? 返事をせえ!」
 校長は眼を閉《つぶ》り歯を喰《くい》しばったまま頭《かしら》を垂《た》れ両の拳《こぶし》を膝《ひざ》に乗せている。
「貴公《おまえ》は娘を狙《ねら》っておるナ! 乃
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