2字下げ]
よもすから木葉かたよる音きけは
しのひに風のかよふなりけり
[#ここで字下げ終わり]
というがあれど、自分は山家の生活を知っていながら、この歌の心をげにもと感じたのは、じつに武蔵野の冬の村居の時であった。
林に座っていて日の光のもっとも美しさを感ずるのは、春の末より夏の初めであるが、それは今ここには書くべきでない。その次は黄葉の季節である。なかば黄いろくなかば緑な林の中に歩いていると、澄みわたった大空が梢々《こずえこずえ》の隙間からのぞかれて日の光は風に動く葉末《はずえ》葉末に砕《くだ》け、その美しさいいつくされず。日光とか碓氷《うすい》とか、天下の名所はともかく、武蔵野のような広い平原の林が隈《くま》なく染まって、日の西に傾くとともに一面の火花を放つというも特異の美観ではあるまいか。もし高きに登りて一目にこの大観を占めることができるならこの上もないこと、よしそれができがたいにせよ、平原の景の単調なるだけに、人をしてその一部を見て全部の広い、ほとんど限りない光景を想像さするものである。その想像に動かされつつ夕照に向かって黄葉の中を歩けるだけ歩くことがどんなにおもしろ
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