がら静かに、
「それとも呼ぼうか?」
「まア、そのほうがいいな。こっちが彼奴《きゃつ》ばかりに頼《たよ》っているように思われるのは、ばかげているからな。」
 大森は「ちょっと」と言って、一口吸った煙草を灰に突っこみ、机に向かって急いで電文を書き終わり、今までぼんやり控えていたお清にそれを渡して、
「すぐ出さしておくれ。」
 お清は座敷を出た。大森はまた煙草を取って、
「それもそうだ、あの先生、りこうでいてばかだから、あまりこっちで騒ぐとすぐ高く止まって、素直に承知することもわざとぐずりたがるからね。」
「それでいてこっちで少し大きく出るとまたすぐおこるのだ。始末にいけない。」と客に言って大あくびを一ツして「とにかく呼ぶとしようじゃアないか。」
「いつ呼ぼう?」と言って、これももらいあくびをした。
「今夜はどうだ。今呼んだって彼奴《きゃつ》宿にいやアしない。」
 大森は机の上の黄金時計《きんどけい》をのぞいて、
「二時四十分か。今はとてもいない。しかし」とまた時計をのぞいて、少し考えて「あすの朝早くしようじゃアないか。中西が来たとなれば、僕はこれから駿河台《するがだい》の大将に会っておく
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