疲労
国木田独歩
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)三十間堀《さんじっけんぼり》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)京橋区|三十間堀《さんじっけんぼり》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#底本では句読点なし。20−8]
−−
京橋区|三十間堀《さんじっけんぼり》に大来館《たいらいかん》という宿屋がある、まず上等の部類で客はみな紳士紳商、電話は客用と店用と二種かけているくらいで、年じゅう十二三人から三十人までの客があるとの事。
ある年の五月半ばごろである。帳場にすわっておる番頭の一人《ひとり》が通りがかりの女中を呼んで、
「お清《きよ》さん、これを大森さんのとこへ持っていって、このかたが先ほど見えましたがお留守だと言って断わりましたって……」
と一枚の小形の名刺を渡した。お清はそれを受けとって梯子段《はしごだん》を上がった。
午後二時ごろで、たいがいの客は実際不在であるから家内《やうち》しんとしてきわめて静かである。中庭の青桐《あおぎり》の若葉の影が拭《ふ》きぬいた廊下に映ってぴかぴか光っている。
次へ
全7ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国木田 独歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング