けて入《はひつ》て來《き》た者《もの》がある。
 可愛《かはい》さうに景氣《けいき》のよい聲《こゑ》、肺臟《はいざう》から出《で》る聲《こゑ》を聞《き》いたのは十|年《ねん》ぶりのやうな氣《き》がして、自分《じぶん》は思《おも》はず立上《たちあが》つた。見《み》れば友人《いうじん》|M君《エムくん》である。
『何處《どこ》へ?』彼《かれ》は問《と》ふた。
『湯《ゆ》ヶ|原《はら》へ行《ゆ》く積《つも》りで出《で》て來《き》たのだ。』
『湯《ゆ》ヶ|原《はら》か。湯《ゆ》ヶ|原《はら》も可《い》いが此頃《このごろ》の天氣《てんき》じやアうんざり[#「うんざり」に傍点]するナア』
『君《きみ》は如何《どう》したのだ。』
『僕《ぼく》は四五日|前《まへ》から小田原《をだはら》の友人《いうじん》の宅《うち》へ遊《あそ》びに行《いつ》て居《ゐ》たのだが、雨《あめ》ばかりで閉口《へいかう》したから、これから歸京《かへら》うと思《おも》ふんだ。』
『湯《ゆ》ヶ|原《はら》へ行《ゆ》き玉《たま》へ。』
『御免《ごめん》、御免《ごめん》、最早《もう》飽《あ》き/\した。』
 平凡《へいぼん》な會話《くわ
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