ともない。』
『吉さんはきっとおかみさんを大事にするよ』と、女は女だけの鑑定《みたて》をしてお常正直なるところを言えばお絹も同意し
『そうらしいねエ』と、これもお世辞にあらず。
『イヤこれは驚いた、そんなら早い話がお絹さんお常さんどちらでもよい、吉さんのところへ押しかけるとしたらどんな者だろう』と、神主の忰《せがれ》の若旦那《わかだんな》と言わるるだけに無遠慮なる言い草、お絹は何と聞きしか
『そんならわたしが押しかけて行こうか、吉《きっ》さんいけないかね。』
『アハハハハハばかを言ってる、ドラ寝るとしよう、皆さんごゆっくり』と、幸衛門の叔父《おじ》さん歳《とし》よりも早く禿《は》げし頭をなでながら内に入りぬ。
『わたしも帰って戦争の夢でも見るかな』と、罪のない若旦那の起《た》ちかかるを止めるように
『戦争はまだ永く続きそうでございますかな』と吉次が座興ならぬ口ぶり、軽く受けて続くとも続くともほんとの戦争はこれからなりと起《た》ち上がり
『また明日《あす》の新聞が楽しみだ、これで敗戦《まけいくさ》だと張り合いがないけれど我軍《こっち》の景気がよいのだから同じ待つにも心持ちが違うよ。』お寝
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