》は主人《あるじ》の姪《めい》、一人は女房の姪、お絹はやせ形《がた》の年上、お常は丸く肥《ふと》りて色白く、都ならば看板娘の役なれどこの二人《ふたり》は衣装《なり》にも振りにも頓着《とんちゃく》なく、糯米《もちごめ》を磨《と》ぐことから小豆《あずき》を煮ること餅を舂《つ》くことまで男のように働き、それで苦情一つ言わずいやな顔一つせず客にはよけいなお世辞の空笑いできぬ代わり愛相《あいそ》よく茶もくんで出す、何を楽しみでかくも働くことかと問われそうで問う人もなく、感心な女とほめられそうで別に評判にも上《のぼ》らず、『いつもご精が出ます』くらいの定《き》まり文句の挨拶《あいさつ》をかけられ『どういたしまして』と軽く応えてすぐ鼻唄《はなうた》に移る、昨日《きのう》も今日《きょう》もかくのごとく、かくて春去り秋|逝《ゆ》くとはさすがにのどかなる田舎《いなか》なりけり。
茶店のことゆえ夜《よ》に入れば商売なく、冬ならば宵から戸を閉《し》めてしまうなれど夏はそうもできず、置座《おきざ》を店の向こう側なる田のそばまで出しての夕涼み、お絹お常もこの時ばかりは全くの用なし主人《あるじ》の姪らしく、八時過
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