れろというから行って見ると、その人はあっちで吉さんとごく懇意にしていた方で、吉さんが病気を親切に看病してくださったそうな。それで吉さんの死ぬる時吉さんから二百円渡されてこれを三角餅の幸衛門に渡し幸衛門の手からお前に半分やってくれろ、半分は親兄弟の墓を修復《しゅふく》する費用にしてその世話を頼むとの遺言、わたしは聞いて返事もろくろくできないでただ承知しましたと泣く泣く帰って来ました。』
『マアどうしたらよかろう、かあいそうに』とお絹は泣き伏しぬ。
『それでは遺言どおりこの百円はお前に渡すから確かに受け取っておくれ』と叔父の出す手をお絹は押しやって
『叔父さんわたしは確かに受け取りました吉さんへはわたしからお礼をいいます、どうかそれで吉さんの後《あと》を立派に弔うてください、あらためてわたしからお頼みしますから。』
[#地から2字上げ](明治三十三年九月作)
底本:「武蔵野」岩波文庫、岩波書店
1939(昭和14)年2月15日第1刷発行
1972(昭和47)年8月16日第37刷改版発行
2002(平成14)年4月5日第77刷発行
底本の親本:「武蔵野」民友社
1901(明治34)年3月
初出:「太陽」
1900(明治33)年12月
入力:土屋隆
校正:蒋龍
2009年3月28日作成
青空文庫作成ファイル:
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