げ》は學校《がくかう》に見《み》えない。
 四五日《しごにち》も經《た》つと此事《このこと》が忽《たちま》ち親父《おやぢ》の耳《みゝ》に入《はひ》つた。親父《おやぢ》は眞赤《まつか》になつて怒《おこ》つた、店にあるだけの櫻《さくら》の木の皮を剥《むか》せ(な脱カ)ければ承知《しようち》しないと力味《りきん》で見《み》たが、さて一向《いつかう》に效果《きゝめ》がない。少年《こども》は平氣で
『私《わたし》は是非《ぜひ》怠惰屋《なまけや》になるのだ、是非《ぜひ》なるのだ』と言張《いひは》つて聽《き》かない。櫻《さくら》の皮《かは》を剥《む》くどころか、家《いへ》の隅《すみ》の方《はう》へすつこん[#「すつこん」に傍点]で了《しま》つて茫然《ぼんやり》して居る。
 色々《いろ/\》と折檻《せつかん》もして見《み》たが無駄《むだ》なので親父《おやぢ》も持餘《もてあま》し、遂《つひ》にお寺樣《てらさま》と相談《さうだん》した結極《あげく》が斯《かう》いふ親子《おやこ》の問答《もんだふ》になつた。
『お前《まへ》が若《も》し怠惰屋《なまけや》の第一等《だいゝつとう》にならうと眞實《ほんと》に思《お
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