。見《み》るからして菫《すみれ》の色《いろ》つやゝかに蜜《みつ》のやうな香《かほり》がして如何《いか》にも甘味《うま》さうである。少年《こども》がこれを口に入《いれ》るのは指《ゆび》一本《いつぽん》動《うご》かすほどのこともない、然《しか》し左《さ》も疲《つか》れ果《はて》て居《ゐ》る樣《さま》で身動《みうごき》もしない、無花果《いちじく》は頬《ほゝ》の上《うへ》にのつたまゝである。
暫《しばら》くは其《その》まゝで居《ゐ》たが遂《つひ》に辛棒《しんぼう》しきれなくなり、少年《こども》[#「少年」は底本では「小年」]は眄目《ながしめ》に父《ちゝ》を見て、鈍《にぶ》い聲《こゑ》で
『父《とつ》さん――父《とつ》さん、これを口《くち》へ入れて下《くだ》さいよう。』
これを聞《き》くや否《いな》や、ラクダルは手《て》に持《もつ》て居《ゐ》た無花果《いちじく》を力任《ちからま》かせに投《な》げて怫然《ふつぜん》と親父《おやぢ》の方《かた》に振《ふ》り向《む》き
『此兒《このこ》を私《わたし》の弟子《でし》にするといふのですか貴樣《あなた》は? 途方《とはう》もないこと、此兒《このこ》が私《
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