ど》まつた。
『実は僕《ぼく》今夜は五円札一枚しか持《もつ》て居ないのだ。これは僕の小使銭《こづかひせん》の余りだから可《い》いやうなものゝ若《も》しか二十円と纏《まとま》ると、鍵《かぎ》の番人をして居る妻君《さいくん》の手からは兎《と》ても取れつこない。どうかして僕が他《よそ》から工面《くめん》しなければならないのは貴女《あなた》にも解《わか》るでせう。だから今夜はこれだけお持《もち》なさい。余《あと》は二三日|中《うち》に如何《どう》にか為《し》ますから。』と紙入《かみいれ》から札《さつ》を出《だし》て静《しづ》に渡した。
『ほんとに私《わたし》は、こんなことが貴郎《あなた》に言はれた義理ぢアないんですけれど、手紙で申し上げたやうな訳《わけ》で……』
『最早《もう》可《い》いよ、僕には解《わか》つてるから。』
『だつて全く貴様《あなた》にお願ひして見る外《ほか》方法が尽《つき》ちやつたのですよ……。』
『最早《もう》解《わか》つてますよ。それで余《あと》の分《ぶん》は何《いづ》れ二三日|中《うち》に持《もつ》て来ます。』

 銀之助は静《しづ》に分《わか》れて最早《もう》歩くのが慊
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