どれだけちがっていましたろう。
※[#アステリズム、1−12−94]
哀れな母親は、その子の死を、かえって子のために幸福《しやわせ》だと言いながらも泣いていました。
ある日のことでした、私は六蔵の新しい墓におまいりするつもりで城山の北にある墓地にゆきますと、母親が先に来ていてしきりと墓のまわりをぐるぐる回りながら、何かひとりごとを言っている様子です。私の近づくのを少しも知らないと見えて、
「なんだってお前は鳥のまねなんぞした、え、なんだって石垣《いしがき》から飛んだの?……だって先生がそう言ったよ、六さんは空を飛ぶつもりで天主台の上から飛んだのだって。いくら白痴《ばか》でも、鳥のまねをする人がありますかね、」と言って少し考えて「けれどもね、お前は死んだほうがいいよ。死んだほうが幸福《しやわせ》だよ……」
私に気がつくや、
「ね、先生。六は死んだほうが幸福《しやわせ》でございますよ、」と言って涙をハラハラとこぼしました。
「そういう事もありませんが、なにしろ不慮の災難だからあきらめる[#「あきらめる」に傍点]よりいたしかたがありませんよ……」
「けれど、なぜ鳥のま
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