だけは前の晩寝冷えをしたので身体の具合が悪く、宵から戸を閉めて床に就《つ》きました。なんでも十時ごろまで外はがやがや話し声が聞えていましたがそのうちだんだん静かになりお俊もおとなしく内に引っ込んだらしかったのです。私は眠られないのと熱《あ》つ苦しいとで、床を出ましてしばらく長火鉢の傍《そば》でマッチで煙草を喫《す》っていましたが、外へ出て見る気になり寝衣《ねまき》のままフイと路地に飛び出しました。路地にはもう誰もいないのです。路地から通りに出ますと、月が傾いてちょうど愛宕山の上にあるのでございます。外はさすがに少しは風があるのでそこからぶらぶら歩いていますと、向うから一人の男が、何かぶつぶつ口小言を云いながらやって参ります、その様子が酔っぱらいらしいので私は道を避けていますとよろよろと私の前に来て顔を上げたのを見れば藤吉でございました。
藤吉は私を見るやいきなり、
『イヤ大将、うめえところで遇《あ》った、今これからお前さんとこへ、押しかけるとこなんだ。サア家へ帰れ、今夜こそおれは勘弁ならんのだ、どうしてもお前さんに聞いてもらうことがあるんだ』と私の手を取ってグイグイ路地の方へ引っ張っ
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