いますと、お俊が飛んで参りまして、
『どうせ私じゃお気に入りませんよ』と言いざま布団《ふとん》を引ったくって自分でどんどん敷き『サア、旦那様お休みなさい、オー世話の焼ける亭主だ』と言いながら色気のある眼元でじっと私を見上げましたことなどは、ただの仕草ではなかったのでございます。そしてその時の私の心持を言いますと、決して長屋の者が信じていたほどの堅固なものでなかったので、木や石でない限り、やはり妙な心持がしたのでございます。
 私がある時藤吉に向い、『どうもお俊さんは意気だ、まるで素人じゃアないようだ』と申しますと、藤吉にやにや笑っていましたが、『うまいところを当てられた、実はあれはさる茶屋でかなり名を売った女中であったのを親方が見つけ出し、本人の心持を聞いて見ると堅気の職人のところにゆきたいというので、それこそ幸いと私に世話してくれたのだ』と少々得意の気味でお俊の身元を打ち明けたのでございます。その時からなおさら私はお俊のそぶりを妙に感じて来ました。
 けれどもまず平穏無事に日が経ちますうち、ちょうど八月の中ごろの馬鹿に熱い日の晩でございます、長屋の者はみんな外に出て涼んでいましたが私
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