んが病気になったら私は死んでしまうと言ってじっと私の眼を見るのでございます。私は気が弱うございますからこういわれますとなんだかうれしいやら悲しいやらツイわれ知らず涙ぐみました、それを見ておさよは私を抱きかかえましたが見るとおさよも眼に一杯涙をもっているのでございます。そして今夜は泊れおっかさんの代りに私が抱いて寝てあげるからといいます。おっかさんに叱られるからいやだと申しますと、おっかさんには私が今|往《い》って謝《ことわ》って来るからかまわないといいます。その時私が、もし母上に言ったらなお叱られる、おさよさんのとこへ遊びに来るのも内証なんだからと小声で言いましたら、いきなり私を突き離して、なぜ内証で来るの、修さんと私と遊んじゃア悪いの、悪いのならもう来なくってもようござんすよと、こわい顔をして私を睨《にら》みつけたのでございます。私は慄《ふ》るい上って縁がわから飛び下り、一目散に飯塚の家から駈け出しました。
 それからというものは決して飯塚に参りません、おさよに途で逢っても逃げ出しました。おさよは私の逃げ出すのを見ていつもただ笑っていましたから、私はなおおさよが自分を欺しかけていたの
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