き下してなお可愛くなったとその柔らかな頬《ほお》を無理に私の顔に押しつけたり、いろいろな真似をするのでございます。
 そうすると私もそれが嬉れしいような気がして、その後はたびたび遊びに出かけて、おさよの顔を見ないと物足りないようになりました。
 そのうち、売卜者から女難のことを言われ、母からは女難ということの講釈を聞かされましたので、子供心にも、もしか今のが女難ではあるまいかと、ひどくこわくなりましたが、母の前では顔にも出さず、ないない心を痛めていながらも時々おさよのもとに遊びに参りましたのでございます。
 今から思いますと、やはりそのころ私はおさよを慕うていたに違いないのです、おさよが私を抱いて赤児《あかんぼ》扱いにするのを私は表面《うわべ》で嫌がりながら内々はうれしく思い、その温たかな柔らかい肌《はだ》で押しつけられた時の心持は今でも忘れないのでございます。女難といえばその時もう女難に罹《かか》っていたといってもよろしゅうございましょう。
 母は毎日のように、女はこわいものだという講釈をして聴かし、いろいろと昔の人のことや、城下の若い者の身の上などを例えに引いて話すのでございます。
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