女難
国木田独歩

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)ある四辻《よつつじ》の隅《すみ》に

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)悠々たる一|寰区《かんく》が作られている

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)山※[#「魚+條」、第4水準2−93−74]《やまばえ》
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     一

 今より四年前のことである、(とある男が話しだした)自分は何かの用事で銀座を歩いていると、ある四辻《よつつじ》の隅《すみ》に一人の男が尺八を吹いているのを見た。七八人の人がその前に立っているので、自分もふと足を止めて聴《き》く人の仲間に加わった。
 ころは春五月の末で、日は西に傾いて西側の家並みの影が東側の家の礎《いしずえ》から二三尺も上に這《は》い上っていた。それで尺八を吹く男の腰から上は鮮《あざ》やかな夕陽《ゆうひ》に照されていたのである。
 夕暮近いので、街はひとしおの雑踏を極め、鉄道馬車の往来、人車《くるま》の東西に駈《か》けぬける車輪の音、途《みち》
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