初恋
国木田独歩

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)頑固《がんこ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一丁|前《さき》
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 僕の十四の時であった。僕の村に大沢先生という老人が住んでいたと仮定したまえ。イヤサ事実だが試みにそう仮定せよということサ。
 この老人の頑固《がんこ》さ加減は立派な漢学者でありながらたれ一人《ひとり》相手にする者がないのでわかる。地下《じげ》の百姓を見てもすぐと理屈でやり込めるところから敬して遠ざけられ、狭い田の畔《くろ》でこの先生に出あう者はまず一丁|前《さき》から避《よ》けてそのお通りを待っているという次第、先生ますます得意になり眼中人なく大手を振って村内を横行していた。
 その家は僕の家《うち》から三丁とは離れない山の麓《ふもと》にあって、四間《よま》ばかしの小さな建築《つくり》ながらよほど風流にできていて庭には樹木多く、草花なども種々植えていたようであった。そのころ四十ばかりになる下男《げなん》と十二歳になる孫娘と、たった三人、よそ目にはサもさびしそうにまた陰気らしゅう住んでいたが、実際はそうでなかった
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