して人気《ひとげ》なき森蔭のベンチに倚ったまま、何時間自分は動かなかったろう。日は全く暮れて四囲《あたり》は真暗になったけれど、少しも気がつかず、ただ腕組して折り折り嘆息《ためいき》を洩《もら》すばかり、ひたすら物思に沈んでいたのである。
 実地に就ての益《やく》に立つ考案《かんがえ》は出ないで、こうなると種々な空想を描いては打壊《ぶちこ》わし、又た描く。空想から空想、枝から枝が生《は》え、殆《ほと》んど止度《とめど》がない。
 痴情の果から母とお光が軍曹に殺ろされる。と一つ思い浮かべるとその悲劇の有様が目の先に浮んで来て、母やお光が血だらけになって逃げ廻る様がありありと見える。今蔵々々と母は逃げながら自分を呼ぶ、自分は飛び込んで母を助けようとすると、一人の兵が自分を捉《とら》えて動かさない……アッと思うとこの空想が破れる。
 自分が百円持って銀行に預けに行く途中で、掏児《すり》に取られた体《てい》にして届け出よう、そう為ようと考がえた、すると嫌疑《けんぎ》が自分にかかり、自分は拘引される、お政と助は拘引中に病死するなど又々浅ましい方に空想が移つる。
 校舎落成のこと、その落成式の光景
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