つや》からでも持て来たお金でしょう。そんな思《おもい》のとッ着いた金なんか借りたくないよ。何だね人面白《ひとおもしろ》くも無い。可いよ今蔵が帰って来るの待っているから。今蔵に言うから」
「イイえ主人《うち》では知らないのですから……」
「オヤ今蔵は知らないの? 驚いた、それじゃお前さんが内証でお貸なの。嘘《うそ》を吐《つ》きなさんな、嘘を。今蔵の奴|必定《きっと》三円位で追返せとか何とか言ったのだろう。だから自分は私を避《よ》けて出て行ったのだろう。可いよ、待ってるから。晩までだって待っていてやるから」
「宅《うち》のは全く、全く知らないので……」と妻は泣いて口がきけない。
「泣かないでも可いじゃアないか。お前さんは亭主の言いつけ通り為たのだから可いじゃアないか。フン何ぞと言うと直ぐ泣くのだ。どうせ私は鬼婆《おにばばア》だから私が何か言うと可怕《こわ》いだろうよ」
何と言われても一方は泣くばかり、母は一人で並べている。
「だから出来なきゃ出来ないと言って寄こせば可いんだ。新町から青山くんだりまで三円ばかしのお金を取りに来るような暇はない身体ですよ。意気地がないから親一人|妹《いもと》
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