けて、身体《からだ》を半分出して四辺《あたり》を見まわすようであったが、ツと外に出た。軒下に立っているのが昨夜《ゆうべ》お梅から『お菊さんによろしく』と冷やかされた男。
『オヤ磯《いそ》さん? なぜそんなところに立ってるの、お入《はい》りな、』と娘は小声でいう。
『入《はい》りそこねて変だから今夜はよそうよ、さっき親父《とっ》さんが出直せッて言ったから、』とにやにや笑いながら言う。
『アラお前さんだったの? 何だか妙なことを言ってたと思ったよ。まアお入りな、かまわないから。』
『出直そうよ、ぐずぐずしてるとまた鉄道往生と間違えられるから、』と行きかける、
『人をばかばかしい、』と娘はまだ何か言いかけると内から母親《おふくろ》があくび声で、
『お菊もう寝るから外をお閉《し》め。』
『何だか雲ぎれがして晴れそうだよ、』と嘘《うそ》を言ってだまかす。
『オヤ外にいたの、何してるんだねえ、早くお閉めよ、』と険貪《けんどん》に言う。
『星が見えるよ、』と言って娘は肩をすぼめて、男の顔を見てにっこり笑う。
『早くお入りよ、』と言って男は踏切の方へすたこら行ってしまったが、たちまち姿が見えなくなった
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