誰も無からう。余我を忘れて恐ろしき空想に沈んで居ると、
「旦那! 旦那!」と呼ぶ声が森の外でした。急いで出て見ると宿の子が立つて居る。
「最早《もう》御用が済んで[#「で」に「〔ママ〕」の注記]帰りましやう」
其処で二人は一先づ小屋に帰ると、井田は、
「どうです今夜は試験のために一晩此処に泊つて御覧になつては。」
余は遂に再び北海道の地を踏まないで今日に到つた。たとひ一家の事情は余の開墾の目的を中止せしめたにせよ、余は今も尚ほ空知川の沿岸を思ふと、あの冷厳なる自然が、余を引つけるやうに感ずるのである。
何故だらう。
[#地から2字上げ](明治三十五年十一月―十二月)
底本:「現代日本文學大系 11 國木田獨歩・田山花袋集」筑摩書房
1970(昭和45)年3月15日初版第1刷発行
1973(昭和48)年9月1日初版第4刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:林田清明
校正:大西敦子
2000年6月27日公開
2006年3月18日修正
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