に来てくれたので、直《たゞち》に目的を語り彼より出来るだけの方便を求めた、主人は余の語る処をにこつい[#「にこつい」に傍点]て聞いて居たが
「一寸《ちよつと》お待ち下さい、少し心当りがありますから。」と言ひ捨てゝ室を去つた。暫時《しばら》くして立還《たちかへ》り
「だから縁といふは奇態なものです。貴所《あなた》最早《もう》御安心なさい、すつかり分明《わかり》ました。」と我身のことの如く喜んで座に着いた。
「わかりましたか。」
「わかりましたとも、大わかり。四日前から私の家にお泊りのお客様があります。この方は御料地の係の方《かた》で先達《せんだつて》から山林を見分《みわけ》してお廻はりになつたのですが、ソラ野宿の方が多がしよう、だから到当身体を傷《こは》して今手前共で保養して居らつしやるのです。篠原さんといふ方ですがね。何でも宅へ見える前の日は空知川の方に居らつしやつたといふこと聞きましたから、若しやと思つて唯今伺つて見ました処が、解りました。ウン道庁の出張員なら山を越すと直ぐ下の小屋に居たと仰しやるのです、御安心なさい此処から一里位なもので訳は有りません、朝行けばお昼前には帰つて来られ
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