う処《ところ》に由《よっ》て迷信を圧《おさ》え神経を静める方法もあろうかと思ったからです。すると母は暫《しばら》く考えて居《い》ましたが、吐息《といき》をして声を潜《ひそ》め、
『これ限《ぎ》りの話だよ、誰《たれ》にも知《しら》してはなりませんよ。私が未《ま》だ若い時分、お里の父上《おとうさま》に縁《えんづ》かない前に或《ある》男に言い寄られて執着《しゅうねく》追い廻《まわ》されたのだよ。けれども私は如何《どう》しても其男の心に従わなかったの。そうすると其男が病気になって死ぬ間際に大変私を怨《うら》んで色々なことを言ったそうです。それで私も可《い》い心持《こころもち》は仕《し》なかったが、此処《ここ》へ縁づいてからは別に気にもせんで暮して居ました。ところが所天《つれあい》[#「所天」は底本では「所夫」]が死《な》くなってからというものは、其《その》男の怨霊《おんりょう》が如何《どう》かすると現われて、可怖《こわ》い顔をして私を睨《にら》み、今にも私を取殺《とりころ》そうとするのです。それで私が不動様を一心に念ずると其怨霊がだん/\消《きえ》て無《なく》なります。それにね、』と、母は一増
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