。」と自分が言うや、
「けれども自殺は人々の自由でしょう。」と彼は笑味《えみ》を含んで言った。
「そうかも知れません。然《しか》し之を止め得るならば、止めるのが又人々の自由なり義務です。」
「可《よ》う御座います。僕も決して自滅したくは有りません若《も》し貴様《あなた》が僕の物話《はなし》を悉皆《すっかり》聴《きい》て、其《その》上《うえ》で僕を救うの策を立てて下さるのなら僕は此《この》上《うえ》もない幸福です。」
斯《こ》う聞いては自分も黙って居られない、
「可《よろ》しい! 何卒《どう》か悉皆《すっかり》聴かして貰《もら》いましょう。今度は僕の方からお願します。」
三
「僕は高橋信造《たかはししんぞう》という姓名ですが、高橋の姓は養家のを冒《おか》したので、僕の元の姓[#「姓」は底本では「性」]は大塚《おおつか》というです。
大塚信造と言った時のことから話しますが、父は大塚|剛蔵《ごうぞう》と言って御存知でも御座《ござ》いますか、東京控訴院の判事としては一寸《ちょっと》世間でも名の知れた男で、剛蔵の名の示す如《ごと》く、剛直|一端《いっぺん》の人物。随分僕を教育
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