に出た原因のために、ふとした原因のために、非常なる悲惨がやゝもすれば、人の頭上に落ちてくるという事実を認《した》たむるのです、僕の身の上の如《ごと》き、全《まっ》たく其《それ》なので、殆《ほと》んど信ず可《べ》からざる怪《あや》しい運命が僕を弄《もてあ》そんで居《い》るのです。僕は運命と言います。僕にはそう外《ほか》には信じられんですから。」と言って彼は吻《ほっ》と嘆息《ためいき》を吐《つ》き、
「けれども貴様|聴《き》いて呉《く》れますか。」
「聴《き》きますとも! 何卒《どう》かお話なさい。」
「それなら先《ま》ず手近な酒のことから話しましょう。貴様は定めし不思議なことと思って居るでしょうが、実は世間に有りふれたことで、苦悩《くるしみ》を忘れたさの魔酔剤に用いて居《お》るのです。砂の中に隠して置くのは隠くして飲まなければならない宅の事情があるからなので、その上、此《この》場所は如何《いか》にも静で且《か》つ快濶《かいかつ》で、如何《いか》な毒々しい運命の魔も身を隠して人を覗《うか》がう暗い蔭《かげ》のないのが僕の気に入ったからです。此処《ここ》へ身を横たえて酒精《アルコール》の力に
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