もう御《おん》ありさまの痛ましさ……」
 水野が堪《こら》え堪えし涙ここに至りて玉のごとく手紙の上に落ちたのを見て、聴《き》く方でもじっと怺《こら》えていたのが、あだかも電気に打たれたかのように、一斉に飛び立ったが感|極《きわ》まってだれも一語を発し得ない。一種言うべからざるすさまじさがこの一区画に充《み》ちた。
 水野君万歳! と真っ先に叫んだのがかの酒癖水兵である。かれは狂気のごとくその大杯を振りまわした。この時自分の口を衝《つ》いて出た叫声《きょうせい》は、
 天皇陛下万歳!



底本:「武蔵野」岩波文庫、岩波書店
   1939(昭和14)年2月15日第1刷発行
   1972(昭和47)年8月16日第37刷改版発行
   2002(平成14)年4月5日第77刷発行
底本の親本:「武蔵野」民友社
   1901(明治34)年3月
初出:「太平洋」
   1900(明治33)年8月
入力:土屋隆
校正:蒋龍
2009年4月8日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全4ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国木田 独歩 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング